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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)188号 判決

原告 石黒富夫

右訴訟代理人弁護士 円谷孝男

被告 大塚操

〈ほか一〇名〉

右被告一一名訴訟代理人弁護士 土橋修丈

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告一一名は、原告に対し、各自、昭和六一年四月二〇日の到来とともに別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を明渡し、かつ同日から右明渡ずみまで月額金六六八八円の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告一一名の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告ら

主文第一項と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、別紙図面イロハニホヘトチリイを順次結んだ直線内部分の土地(以下「甲土地」という。)を所有している。

2(一)  原告は、大塚春雄に対し、昭和三一年四月一九日、甲土地を、非堅固な建物所有目的・賃貸期間三〇年の約定で賃貸した。

(二) 大塚春雄は、昭和五五年九月二八日死亡し、被告大塚コウ、同大塚チヱ子、同大塚亨一、同大塚昌次、同高森久子、同大塚利雄、同大塚実、同大塚輝雄が相続した。

(三) 原告には、昭和六一年四月二〇日からの右賃貸借契約の更新を拒絶する正当な事由がある。

すなわち、大塚春雄は、右賃借後、別紙図面および部分に二棟の建物を建て、また本件土地上(部分)に建物一棟を建て、その建物間の空地部分を仕事場として利用していたところ、本件土地上の建物は昭和五四年一一月ころ取り壊され、本件土地は空地となっている。他方、原告は、昭和五六年三月一〇日藤原良子と結婚し、昭和五七年六月一七日には長女智美も出生したので、本件土地上に建物を建てる必要がある。

3  被告大塚操、同有限会社ミサオ建設、同大塚建設株式会社は、他の被告らとともに、本件土地を占有している。

4  本件土地の賃料相当損害金は、月額金六六八八円を下らない。

5  被告一一名は、昭和六一年四月一九日を経過しても、本件土地を明渡さない見通しなので、予めその明渡を求める必要がある。

6  よって、原告は、各自、被告大塚コウ・大塚チヱ子・同大塚亨一・同大塚昌次・同高森久子・同大塚利雄・同大塚実・同大塚輝雄に対しては賃貸借終了に基づき、被告大塚操・同有限会社ミサオ建設・同大塚建設株式会社に対しては所有権に基づき、昭和六一年四月二〇日の到来と同時に本件土地を明渡すことを求めるとともに、昭和六一年四月二〇日から右明渡ずみまで月額六六八八円の割合による賃料相当損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)の事実のうち、賃借の事実は認めるが、その年月日は否認する。

3  同2(二)の事実は認める。

4  同2(三)の事実は否認する。ただし、原告が昭和五六年三月一〇日に藤原良子と結婚し、昭和五七年六月一七日に長女智美が出生したことは知らない。

5  同3、4、5の事実はいずれも否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  《証拠省略》を総合すれば、請求原因5の事実(予めの明渡等を求める必要)を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  被告大塚コウ、同大塚チヱ子、同大塚亨一、同大塚昌次、同高森久子、同大塚利雄、同大塚実、同大塚輝雄に対する請求について

1  請求原因2(一)の事実(賃貸借契約)のうち、原告が大塚春雄に対し、甲土地を、非堅固な建物所有目的・期間三〇年の約定で賃貸したことは当事者間に争いがなく、また《証拠省略》によれば、その賃貸期間は昭和三一年四月一九日から三〇年間と定められたことが認められ(る。)《証拠判断省略》

そうすると、甲土地に対する建物所有目的の賃借権(借地権)の存続期間は、後に述べる更新なき限り、昭和六一年三月一九日までということになる。

2  請求原因2(二)の事実(大塚春雄の死亡と被告大塚コウらによる相続)は当事者間に争いがない。

3  原告は、賃借人たる地位を承継した被告大塚コウらに対し、右賃貸借期間を経過した昭和六一年三月二〇日の到来と同時に甲土地の一部である本件土地につき建物所有目的の賃借権が消滅することを前提にして、将来の給付請求として、同日到来と同時の本件土地の明渡を求めているが、右賃貸借期間は昭和六一年三月一九日の経過により終了するとしても、賃借人側においてその後その更新を請求し又は土地の使用を継続するときは賃貸人側において「遅滞ナク異議ヲ述へ」かつその時点で「自ラ土地ヲ使用スルコトヲ必要トスル場合其他正当ノ事由」の要件を具備していない限り、その賃借権は更新され賃貸人は賃借人に対し土地明渡を求めることができなくなる(借地法四、六条参照)のであるから、本件口頭弁論終結時たる昭和五八年六月二三日の時点で本件土地上に建物がなく、また大塚春雄において建物間の空地部分を仕事場として利用してきており、原告が昭和五六年三月一〇日には藤原良子と結婚し昭和五七年六月一七日には長女智美が出生し本件土地上に建物を建てる必要がある等の事情があるとしても、将来の異議時における正当事由を具備したとまでいうことはできないといわなければならない(これらの事情は、右期限到来後において、右口頭弁論終結後期限到来時までに生じた事情も含め、賃借人の更新請求又は使用継続に対し賃貸人たる原告が遅滞なく異議を述べたときに、判断評価されるべきものである)。

4  以上によると、その余について判断するまでもなく、原告の被告大塚コウらに対する本訴請求は理由がないことに帰する。

三  被告大塚操、同有限会社ミサオ建設、同大塚建設株式会社に対する請求について

1  請求原因1の事実(原告の所有)は当事者間に争いがない。

2  請求原因2の事実(被告大塚操らの占有)については、これを認めるに足りる証拠がない。

すなわち、《証拠省略》によると、被告有限会社ミサオ建設、同大塚建設株式会社は大塚春雄の同意を得て別紙図面付近にある建物の一部を資材置場として使用しているにすぎないこと、また被告大塚操は、大塚春雄の相続人である被告大塚チヱ子の夫であって、別紙図面付近の建物に居住し、被告大塚コウらの本件土地に対する賃借権に基づき時折本件土地を仕事場として使用しているにすぎないことが認められ、これらの事実によると、被告大塚操らの本件土地の利用は、被告大塚コウらの有する本件土地賃借権を前提としたもので、その占有は独自の意味を有するものとはいえないというべきものである。

3  以上によると、その余について判断するまでもなく、原告の被告大塚操らに対する本訴請求は理由がないことに帰する。

四  結論

よって、原告の被告一一名に対する本訴請求はいずれも失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中野哲弘)

〈以下省略〉

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